岸辺の旅

+岸辺の旅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒沢清さんはご贔屓の監督なので、「人間合格」以降全て映画館へ出かけます。前作「リアル〜完全なる首長竜の日〜」が全く波長が合わず残念に思っていたら、今回の作品はガツンとハマりました。

夫・優介が失踪して3年。瑞希(深津絵里)はピアノ教師として生計を立てつつ、一人静かに暮らす日々。夫の好物だったであろう、黒胡麻餡入りの白玉ダンゴを作っていて、ふと気配に振り向くと、コートに靴のままの優介(浅野忠信)が、まるで部屋の隅から滲み出たように立っています。「俺、死んだよ」と一言。死者である彼に「白玉食べる?」と瑞希。
ここまでたどり着く途中で世話になった人々を訪ねたり、美しい風景を見せたいと言い出す優介に合わせて、夫婦で旅をすることに。死者だから、夫・優介は妻の瑞希にだけ見えるのかと思ったら、いきなり駅員さんに行き方を訪ねるのでビックリ。

最初に訪ねる新聞販売店の島影さんは死者、次に訪れる小さな食堂の夫婦は生者ですが、奥さんが30年も前に10歳で亡くなっている妹に囚われている。3番目は山奥の村、世話になった村のまとめ役の柄本明は、亡くなった一人息子の嫁が死者だと思っている…と、もう誰が死者で誰が生者なのやら訳が分かりませんが、そこが不思議に面白いのです。

ホラー的な表現も多く、「LOFT」「叫び」「降霊」に共通する「何かがいそうな気配」が随所に。人のバックで、外からの光がカーテン越しにゆらゆらするだけで、もうゾクッときます。鈴虫の泣くような効果音とともに光が落ちると、自分の周りの温度が少し下がったような気さえします。

最後に海辺で、消えてしまいそうな優介に瑞希は「うちへ帰ろうよ。一緒に帰ろうよ」、でも彼はただただ「謝りたかった」というばかり。アップからロングに切り替わると、もう彼はいなくなっている… この素っ気なさが良いです。

今回少々引っかかったのは、音楽が過剰過ぎること。これは、プログラムのインタビューによれば「メロドラマなので、これでもかというぐらい音楽で盛り上げたかった」とのことらしいですが、個人的には抑えてほしかったです。

「岸辺の旅」 2015 監督=黒沢清

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