ミア・ワシコウスカが、淡い黄色のワンピをヒラヒラさせて庭を駆けて来る冒頭は、なにやらファンタジックですが、その日18歳の誕生日に父親が事故死、その葬式に、会ったこともない父親の弟・チャーリーが現れて、その日から、昔を知る家政婦の女性が消え、忠告に訪れた叔母が消え…。
ストーカー邸は、全体に壁も扉も緑基調に作られていて、キャストの服も上手くそれに溶け込むように準備されており、スチール写真のどれを取っても完璧な色構成です。柔らかな光に包まれた広大な庭も夢のように美しい。そして物語は「呪われた血統の目覚め」みたいな… ドロドロ…
パク監督作品「オールドボーイ」「親切なクムジャさん」のストレートな血なまぐささはないものの、ウルトラクローズアップや、ある種の音を極端に強くして、気持ちよく見たいこちらの感覚を悉く崩してくれます。
足を這い回る小さな蜘蛛のグロテクスなほどのアップ、インディアがゆで卵の殻をテーブルに押しつぶしてむく時の、グジャリという嫌な音。乱暴しようとした男友達を、叔父と一緒に始末して戻ったインディアが風呂に入るのですが、体に付いていた土くれや枯れ枝がバスタブの湯に浮くシーンもえぐいです。
残酷な描写はないのに強烈に怖かったのは、ストーカー家の3兄弟がまだ幼かったある日の回想。インディアの父親リチャードがまだ14〜5歳でしょうか。芝刈り機かなにか、機材の調子を見ている間、6〜7歳の次男チャーリーと、小さな3男は砂遊びに夢中。次男チャーリーは何やら大穴を掘っています。すぐ側で、幼い弟ものどかに遊んでいる。リチャードがしばらくして戻ってみると、穴は埋められていて、チャーリーがその上で満足そうに寝転んで、手足で砂をなでている、そして側にいたはずの3番目の幼い弟がいない… 柔らかな光の中、終始美しい映像で語られる残酷なこのシーンにはゾッとしました。
マシュー・グード演じるチャーリーが、まるで「悪の教典」のハスミンみたいです。貴志祐介の小説に、先天的に善悪・他者への共感が欠如した人物がよく出てきますが、チャーリーがそんな人物。全く無感情に、邪魔な人物を淡々と消していく気味の悪さが、端正な顔と合っていて上手いキャスティングだなと思いました。
「イノセントガーデン」STOKER 2013 監督=パク・チャヌク