レンタルビデオだDVDだと、映画館以外でもガツガツ見まくってしまう自分にとって、好きな作品でありながら25年間見返すことが出来なかった作品というのは珍しいです。
1987年デンマーク映画「バベットの晩餐会」、日本公開は1989年でした。前半1時間は物語をほぼ忘れておりました。舞台はデンマーク、ユトランドの海辺の小さな村、厳格な宗派の牧師を父に持つ姉妹マチーヌとフィリッパ。この美人姉妹に惚れ込むのは、パリで売れっ子の声楽家パパンと青年将校ローレンス。結局姉妹は独身を通し、2人ともふられてしまいますが、この声楽家のご縁で1871年、パリ・コミューンで夫と息子を殺され逃亡してきたバベットが、家政婦として姉妹の家に住み込むことになるんですね。
それから14年の月日が流れ、彼女もすっかり村に馴染んだ頃。毎年パリの友人から送られてくる宝くじが、ある日大当たります。その金額1万フラン! 現在ならば20万フランだそうなので450万円ぐらいなのでしょうか。
姉妹は、これでバベットがパリに帰ってしまうとヘコみますが、彼女はこのお金で、もうすぐやって来る亡父の牧師生誕100年記念会の晩餐を用意させて欲しいと申し出ます。信者はみな老いて、集まっても12人だけ。簡素に済ませようと考えていた姉妹は戸惑いますが、14年間実直に働いてくれた彼女の初めての頼みとあって、晩餐の準備を任せることに。
さぁ、ここからが後半の見所! はるばる船で買い出しから帰って来た彼女が運び込んでくるのは、ウゾウゾ動く大きなウミガメ、皮を剥いだ牛の頭、ピィピィ鳴くウズラの籠を下げ、黒マント翻して戻って来たバベットは、さながら「黒の女王」の風情。姉妹はドン引きして、信者に「魔女の饗宴」に招いてしまったことを詫びる始末。結局全員で「我々は牧師さまを讃えるためだけに集まるのだから、料理のことは一切考えない、話題にしない」と決めます。
晩餐当日、コットンの白クロス、銀食器で美しく整えられた食卓に、出て来る出て来るゴージャスな料理。ここで、かつて姉に惚れ込むも、諦めた青年将校ローレンスが、はげ頭の立派な将軍となって同席するのですが、料理の話題を避ける村人たちをよそに、食前酒のアモンティヤード、ウミガメのスープからもうテンション上がりまくりです。この将軍のはしゃぎっぷりがとても楽しい。そして「うずらのフォアグラ詰めパイケース入り」で、パリで同じものを食べたことがあると言い出します。そう、彼女はパリのレストラン「カフェ・アングレ」の有名な料理長だったわけです。
老いて気難しくなって、最近はけんかばかりだったみんなも、最後はワインで赤ら顔。幸せそうに帰っていきます。バベットも宝くじの1万フランを、この一夜の晩餐できれいさっぱり使い果たし、姉妹と3人、また明日から質素な生活が始まるわねぇ…という感じのラスト。
私もしばらくはDVDを封印、また数年後に見返して、再び幸せな気分に浸ることにしようと思います。
「バベットの晩餐会」Babette’s Feast 監督=ガブリエル・アクセル